ガン 運動


運動する人にガンが少ない

ガンほど恐れられている病気はないでしょう。しかし現実には4人に1人がガンで亡くなっています。

早く見つけて治すと言っても、ガンの部位によっては 殆ど不可能です。健康的なライフスタイルを実行しながらガンに侵されにくい体を創っていくというのが、健康増進医学の基本理念です。

食事に注意し、ストレスに気をつけることがガン予防に大切なことは一般に知 られるようになってきました。

しかし運動ガンとの関係については、まだあまり知られていないようですし、関心も持たれておりません。

近年の研究により、ガン予防のためには、エアロビクス運動(ジョギング、テニス、水泳など 心臓をドキドキさせる運動)が役に立つことが明らかになりました。適度な運動をしている人にいろいろなガンが少ないことがわかってきているのです。

運動がコレステロールを下げたり、肥満を防ぎ、糖尿病の予防に役立つ、精神面 でもよろしいだけでなく、ガンを防ぐ働きもあるのです。ぜひとも日常生活に運動を取り入れたいものです。

エアロビクス運動とガンとの関係を調べた多くの研究が発表されています。今回はここ数年発表されたデータを中心にお話ししましょう。

1 動物実験

動物実験では、化学物質を与えて人工的にガンをつくことができますが、運動をさせるとガンができにくくなることが知られています。

32匹の雄のネズミ がアゾキシメチレンという発ガン性物質を皮下注射された後、毎日2キロの距離をトレッドミルで走らされました。32週間たちますと、運動しないネズミと比べ、この運動ネズミははるかに大腸粘膜のガンの発生が少なかったのです 。

次のような実験もあります。赤ちゃんの時に発ガン性物質アザセリンを与えられたネズミは、自由に回転する運動器で運動させておくと、4カ月後には、運動できなかったネズミに比べ、膵臓ガンの発育が緩やかな傾向があり ました。

DMBAという乳ガンを起こす物質を与えられたネズミは、運動器で自由に運動させておくと、じっとしているネズミと比較しますと、明らかに乳ガンの発生が少ないのです。

ただし、動物に過重な運動負荷をかけますと、かえって腫瘍の増殖が促進される傾向が知られています。自発的な適度な運動でないと、ガンを防ぐ効果は期待できないようです。

2 疫学調査

日頃運動をしている人(スポーツに励む場合と、仕事上体を動かす場合とがあります)がガンにかかりにくい傾向のあることが、多数の疫学調査で明らかにされてきました。

ガン全体については、次のような報告があります。7735人を9.5年追跡した 調査によれば、運動している人のガン全体の危険度は、0.62倍でした。

17607名の大学卒業者を22年から26年追跡した結果、よく運動している人はそうでない人に比べ0.19倍から0.56倍の大腸ガンの危険率、0.39倍か ら0.62倍の肺ガンの危険率でした。

しかし運動している人の直腸ガン、前立腺 ガン、膵臓ガンの危険率は減少していませんでした。ではなぜ運動して いる人が大腸ガンになりにくいのでしょうか?一つの有力な仮説として、運動している人が便秘になりにくい傾向がありますので、これが関係しているのかもしれないと言われています。

運動が腸管の活動を強め便がスムースに肛門まで送られやすくします。便秘の人は大腸ガンになり易いことが知られているからです。

別の研究では、運動は直腸ガンの危険も低める可能性が示されています。2503人の男性を調べた結果、仕事上体を動かさない人は、動かす人に比べ大腸ガンの危険が1.2倍、直腸ガンは1.3倍でした。

乳ガンは卵巣ホルモンの分泌と関わりがあります。運動は月経の周期を変え、 卵巣ホルモンの分泌量を変えることができるので、乳ガンの危険を減らす可能性が考えられます。

ある研究で、40歳以下の545人の乳ガン患者のライフスタイルが同数の健常者と比べられた結果、運動は乳ガンの危険を減らすことがわかりました。1週間に平均して3.8時間以上の運動をしていた婦人の乳ガンの危険率は、経産婦で0.28倍、未経産婦で0.73倍でした。

子宮体ガンに関して、274人の患者がそうでない人と比較されました。ガンの人は運動が少ない傾向があり、運動量がやや少ない、非常に少ない人は、1.3 倍から2.3倍の子宮体ガンの危険率でした。

別の研究では、297人の子宮体ガン患者が調べられ、あまりスポーツなどをしない人のこのガンの危険率は1.9倍、普段階段を上ったり仕事で歩いたりしない人は2.2倍の危険率でした 。子宮体ガンも卵巣ホルモンの分泌と関係があります。

前立腺ガンについては、17719人の追跡データで、運動を盛んに行っている70歳以上の人は、そうでない人に比べ、危険率は0.53倍でした。 テストステロンという性ホルモンが多いと前立腺ガンにかかりやすいことが知られておりますが、運動選手の血中テストステロン濃度が低いことが知られています。

このように、運動はいろいろなホルモンの分泌を変え、ホルモン依存性のガンを減らすのではないかと考えられています

今までの研究をまとめてみますと、運動は膵臓ガン、膀胱ガン、胃ガン等には、それほど予防効果がなさそうです。

しかしまだわかっていないことが多く、日本人については殆ど研究されておらず、今後の研究に期待したいと思います。

アメリカガン協会が運動選手について調べたところ、激しい運動をしている選手は、軽い運動をしている選手よりもいろいろなガンの死亡率が高かったのです。

運動なら何でもいいというのではなく、やはり適度でないとガン予防の効果がないようです。

3 運動と免疫

運動している人にガンが少ないのは、免疫力と関係があるかもしれません。

免疫力が長年低下していると、ついにはガンになるかもしれません。逆に、免疫がよい状態ならば、ガンを予防できるかもしれません。運動が免疫力を上げるならば、ガン予防にも役立つのです。

ガンと関係ある免疫細胞で最重要なのはリンパ球でしょう。運動をするとすぐに血液中のリンパ球が増えることが証明されています。

リンパ球の増加はあるいはガンに対する免疫力の増加に役立つかもしれません。リンパ球に はBとTの2種類がありますが、Bリンパ球が増えることがわかっていますし、Tリンパ球も増えます。ガン細胞をやっつけてくれるものとしてナチュラルキ ラー細胞(NK細胞)が注目されていますが、運動するとNK細胞の活性が増えます。

他にも多数の論文が運動と免疫に関して発表されています。運動が免疫を抑制するという論文もありますが、大切なのはどんな運動か、軽いか重いか、持続時間はどうかと言うことです。重い運動を続けると免疫が落ちる可能性があるからです。免疫力が落ちているかどうかを簡単に知る方法をして、風邪を引きやすいかどうかがあげられます。

大学のボート選手はそうでない大学生より風邪を引きやすい、ロサンゼルスマラソンのランナーはすぐ風邪を 引きやすい等が報告されています。風邪を引きやすくならない程度に 運動をすると言うのが一つの目安になるかもしれません。

4 結論

適度なエアロビクス運動を続けていれば、ある程度はガンの予防に役立つであろうと言えます。

ただし、無理な運動を続けていれば、かえって免疫力が落ちてしまい、ガンになりやすくなる可能性が出てきますので、注意していなければなりません。1週間に4-5回、20-30分くらい、軽く汗を流す程度の運動で充分です。

これ以上の運動はかえって免疫力を落とすかもしれません。この意味で、フルマラソンやトライアスロン等は過激すぎて、かえって害がある可能性が高いと言えます。

現実にこのような重いスポーツに夢中になって、 ガンになってしまったと後悔している人がいます。大会に出ていい成績を取り たいあまり、無理な練習を重ね、体を壊してしまうのも、考えものです。

運動 はリラックスして、楽しんでしたいものです。

かといって、軽すぎる運動、例えば1日20分の散歩程度では、ガン予防は期待できないかもしれません。散歩なら1時間くらい、早めに歩くのであれば効果が期待できるでしょう。

ガンにかかりにくい体を創るためには、食事の注意、あるいは精神面の注意だ けでなく、適度の運動が大切なことを強調したいと思います。運動を含めた総合的な健康的なライフスタイルが必須なのです。


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