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ガン細胞の誕生と発育をどう防ぐか?
1ガンを健康増進医学で防ぐ
医学が進歩したといっても、いまだに恐がられている病気がガンでしょう。日本人全体の死者の28.5%がガンで亡くなっていますし、50代では4割以上がガン死です。男性の3人に1人、女性の4人に1人がガンで亡くなっているのです。
近年ガンのパターンが変わり、男性では長年トップだった胃ガンは第2位に落ち、現在は肺ガンがトップになりました。
消化器ガンの中でも、大腸ガンが胃ガンを越す勢いになっています。膵臓ガン・乳ガン・前立腺ガン等、欧米に多いガンが増えてきています。日本人のライフスタイルが変わってきたためでしょう。
ガンという病気の難しさは、進行するまで症状に乏しく、症状が出てからでは 、すでに転移していることが多く、手術・放射線・抗ガン剤といった従来の治療法では、根治が難しいのが現状です。
ここ20年を見ても、5年生存率は、 たいして進歩していません。人間ドック・検診などでは、早期発見できないことも少なくありません。肺ガン検診など、検診そのものを見直すべきであるという意見もあります。
自覚症状に乏しく、早期発見が必ずしもうまくいかない、かつ治療も限界があるガンに対して、どのように立ち向かったらいいのでしょうか? それは健康増進医学の登場しかありません。ガンそのものが体に起こらない、あるいは、増えないような体を日頃から創っておくのがいいのです。それが健康増進医学です。
このことを考える前に、どのようにしてガンが起こるのかを考えてみましょう 。
2ガン細胞の誕生
ガン研究の難しさは、外来の細菌によって肺炎が起きるなどと違い、ガン細胞が正常細胞から発生するということです。今まで正常に働いていた細胞が、どのようにしてガン細胞になるのでしょうか?
人間の体は、60兆の細胞からできています。細胞の核の中に、遺伝子が存在 します。1人の人は、5万個の遺伝子を持っています。遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という物質でできています 。
DNAは、アデニン(A)・グアニン(G) ・シトシン(C)・チミン(T)という4つの塩基でできており、あの複雑な遺伝情報 も、このわずか4つの塩基の組み合わせだけで、正しく伝えられます。
人間の細胞はいずれ死んでしまうので、その前に新しい細胞を複製する必要があります。
細胞分裂のとき、このDNAが複製されますが、非常に高い精度で 複製されるものの、ごくまれにミスが起きることがあります。これは、DNA の中の、塩基の1個または多数の塩基対がほかの塩基対に変異することです。
この時DNA修復酵素が働いて、すばやく修復しようとしますが、うまく修復されないことがあります。
DNAのたった1個の変異で、正常細胞がガン細胞に なってしまうことがあります。ですから、ガンという病気は、遺伝子の病気である、ということができるのです。
3ガン遺伝子・ガン抑制遺伝子
近年、健康な人間の細胞の中に、ガン遺伝子、ガン抑制遺伝子があり、これらが発ガンをコントロールしていることがわかってきました。
ガンを発生させる 遺伝子をガン遺伝子といいます。
ガン抑制遺伝子は、我々の体をガンから守ってくれている遺伝子です。
実は、今まで述べてきたDNAの突然変異は、ガン遺伝子以外のところに起きてもガン化しません。
ガン遺伝子が突然変異によって活性化され、ガン抑制遺伝子が突然変異によってうまく働かなくなると、ガンが起こりやすくなります。
車でいうと、前者はアクセルの故障、後者はブレ ーキの故障ということになります。
現在100以上のガン遺伝子、10以上の ガン抑制遺伝子が発見されており、これらの解析により、どの人が今後どのよ うなガンになりやすいか、経過がどうかなどがかなり的確にわかるようになります。
4変異原物質とは?
変異を起こす原因としては、放射線・紫外線・化学物質(大気汚染・農薬・薬・酒・タバコなど)・ウィルスなどがあります。
これらは容易にDNAを傷つけますので、できるだけ避けるほうが賢明です。
これらの多くに共通しているのは、活性酸素を発生することです。活性酸素がDNAを傷つけるのです。
ウィルスは、遺伝子そのものですから、感染によって、ウィルスの遺伝子がそのまま生体に入り込んできます。
ガンウィルスとしては、B・C型肝炎ウィルス 、EBウィルス、HIV、HTLVなどがあります。
DNAに変異が起きたまま細胞が成長してしまうと、ガン細胞になってしまう かもしれないので、この時は、体がこの細胞が死ぬように命令し、細胞は実際死んでしまうことがあります。
これをアポトーシス(細胞自死現象)といいます。
もしガン遺伝子のDNAの複製にミスが起き、修復酵素がうまく働かず、アポ トーシスも起こらなかったならば、その細胞はガン細胞になってしまいます。
しかしながら、もし免疫監視機構が正常に機能していれば、リンパ球やナチュ ラルキラー細胞などが、ガン細胞を食べてくれて、生体をガンから守ってくれます。このように、何重にもわたって生体はガンから守られています。
5プロモーターとは?
おわかりのように、変異原物質によってガン遺伝子に変異が起こることがまず必要ですが、これを“生みの親”(イニシエーター・初発因子)とすれば、“ 育ての親”も必要です。これをプロモーター(促進因子)といい、ガン細胞が完成します。
プロモーターそのものでは、ガン細胞をつくり出すことができませんが、変異原物質の作用を受けた細胞が成長していくのを助けます。
例えば 、胃ガンでは食塩がプロモーターと考えられています。大腸ガンでは、胆汁酸 、乳ガン・子宮ガンでは、ホルモンが育ての親のようです。
タバコはイニシエ ーターであると同時に、プロモーターでもあります。
ガン予防上は、イニシエーターだけではなく、プロモーターにも注意する必要があります。
6ライフスタイルで発ガンを防ぐ
ガンの発生が、ガン遺伝子・ガン抑制遺伝子によって決定されているならば、 何か宿命的で、人間の努力ではどうしようもないような感じを受ける人がいるかもしれませんが、それは正しくありません。
前述のように、いろいろな変異原物質ですから、それらをできるだけ避けるよ うにすることで、ガン遺伝子・ガン抑制遺伝子に変異を起こすことを最小限に することができます。ガン遺伝子・ガン抑制遺伝子に変異があっても、生活習慣によって、発ガンを防ぐことができることが証明されています。
より健康的なライフスタイルは、現実の発ガンの危険をかなり防ぐことができるのです。
さらに幸いなのは、ガンの進行がゆるやかであることです。
たった1個の正常細胞がガン細胞になり、30回細胞分裂しますと、1センチ 平方、1グラムのガン組織になります。レントゲンなどでかろうじて発見可能 な大きさです。
更に10回分裂すれば、ガン細胞は1兆個となり、人はガン細胞とともに命を落とします。この間平均して約20年かかります。
ということは、20年の間に、できるだけ変異原物質を避けるようにし、プロモータを働かせないようにすれば、ガンで命を落とすことが防止できるかもしれないのです。そこに健康増進医学が期待されます。